赤カブト

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 こんにちはカマキリでございます。ワタクシは少年時代にカブト虫採りに熱中しておりました。その時に不思議な体験も…。本日は、ワタクシの体験した二度と忘れぬことのできない出来事について語らせて頂きたいと思います。

 ワタクシは埼玉県の山深いところで育ちました。よって、当然のようにカブト虫やクワガタをバンバン採っておりました。

 それは小学四年生の夏に起こったのでございます。ワタクシはいつものように同級生からの依頼を受けて山に入りました。

 いつもの特製スイカ・ジュースを置いたところに行きますと、います。ススメバチ、カナブン、クワガタ、そしてカブト虫が群れをなしていたのでございます。ワタクシは棒でスズメバチを追い払い、さてとカブト虫を捕獲しようとすると、

 「ん?」

 一匹だけ異様に大きいカブト虫がいたのでございます。しかも、真っ赤。その赤さは良くカブト虫に見られる茶色がかった赤ではなく、文字通り赤に近い赤だったのでございます。

 ワタクシの地方では、このようなカブト虫を赤カブと申します。しかし、そのカブト虫は赤すぎるのでございます。ワタクシは狂喜乱舞、急いでそのカブトを捕獲し家に持って帰りました。

 家に帰りそのカブトを空いていた金魚鉢に入れてみると、とにかくデカい。捕獲した時に感じた以上だったのでございます。通常のカブト虫の1.5倍といったところでしょうか。しかも、王者の風格がある。まさに、山の神といったところでございます。

 ワタクシはもう嬉しくてジーとそのカブト虫を眺めておりました。しかし、フッとあることに気づいたのでございます。元気が無いのです。全くと言っていいほど動かない。

 ワタクシは心配になり手でチョコっと触ってみると、

 『ガシガシ#^¥%!&$?ウリャ!!』

 動く動く、もう離せこのやろうという感じでございます。安堵したワタクシは、またジーと見ていると、死んだように動かない。また手で触ると、

 『うりゃ!こりゃ!ガシガシ#^¥%!&$?』

 よく動く。こんなことを何度か繰り返し、家族に見せて自慢したり、なんだかんだで就寝につこうとすると、ワタクシは急に不安になってきたのでございます。もしかしたら、あれは本当に山の神なのではないかと。あの大きさ、真っ赤とも言うべき色合い、そして何百倍も大きいワタクシへの対抗心。ワタクシは祟られるのではないかと。

 そう思うとワタクシはもう寝ることができませんでした。答えがでないまま、このまま持って祟られながらも自慢しまくるべきか、それとも解放して祟られずに済むのか。良き回答が出ないワタクシは、夜中にまた山の神の元へ。いつものように無言の威嚇をしております。

 試しに手で触ると、

 『うりゃ!こりゃ!ガシガシ#^¥%!&$?なめとんのか!!!』

 さらに激しさを増した抵抗でございます。

 ワタクシはこれを見て山に帰そうと決心をいたしました。

 ほぼ一睡もできないまま、ワタクシは山の神を水槽に入れて山に入りました。元いた所に帰そうとしましたが、よく考えれば此処では他の誰かに捕獲されてしまいます。

 ワタクシは普段は入ることない山奥へと進んだのでございます。このあたりなら誰も来ないであろうと思われるあたりで、ワタクシは山の神を手で掴み、ナント放り投げたのでございます。山の神と恐れて元に戻そうとしているにも関わらず、ワタクシはいつもの様に放り投げたのでございます。

 「やば。」

 ワタクシが一瞬、躊躇したその時でございます。

 『ブワサ!!』

 ナント、山の神は羽尾を大きく広げ飛んだのでございます。

 ワタクシは何百匹とカブト虫を放り投げてきましたが、飛んだカブトを見たのは初めてでございます。ワタクシはその時に心から帰してよかったと思いました。大きさ、色合い、スピリット。三拍子、兼ね揃へ、しかも帰り際がクール。これはもう山の神以外の何者でもございません。

 それからのワタクシは急にカブト虫採りの情熱を無くしてしまいました。何か大きな山を超えたような気がしたのでございます。

 あれから数多の月日が経過しましたが、時々、あのカブト虫のことを思い出します。自然への畏敬の念と大人への扉を開けてくれたあのカブト虫のことを。ちなみに、最後にオシッコを手にかけていったヤンチャさも、流石、帝王という感じでございました。

 以上、カマキリColumnでした。

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